えー、いよいよ本州も本格的に梅雨に入りまして、
ここ2、3日は晴れ間がのぞいておりますが、じめじめとした、いやぁ~な季節になりましたねぇ。
こんな季節になると、濡れ女、雨女、雨降り小僧なんて妖怪が頭に思い浮かびますがね…
今宵のお噺は、そんな梅雨の時期に、とある妖怪に遭遇したっていう、そんな、お噺でございます。
九州のとある地方に、小学4年生のU子という女の子がいましてね、ちょうど水無月の梅雨に入ったころだったそうですよ。
U子が通う小学校には、正門とは別に、裏門、西門、南門と4つの校門があり、U子は正門から帰る組分けをされていました。
ただね、このU子っていうのは、少しばかり天邪鬼でしてね、わざわざ遠回りになる裏門から帰宅したりなんてしていたわけですな。
この日もね、学校が終り、昇降口でもって長靴をはきましてね、バッとお気に入りの傘なんかをさして、裏門から1人で帰路についた。
するってーと、裏門から直ぐのガードレールに、真っ赤な傘を持ち、黄色の通学帽子を被って、赤いランドセルを背負った女の子がうつ向いてたたずんでいる。
知らない子だったので、とくに声もかけずにね、その日はそのまま通り過ぎました。
それからまた数日経った、雨の強い日のことだ。
さーーーーーーーーーーー
土砂降りって感じの雨じゃあなくて、シャワーの様な雨っていうのかなぁ、絶え間なく一定のリズムで振り続けているね。
U子はこの日も、いつもの気まぐれでもって裏門から一人帰路についた。
するとね、また先日見かけた女の子が、前とおんなじガードレールのところで、ひとり、ぽつーんと佇んでる。
さーーーーーーーーーーー
雨が絶え間なく降りつづいている。
黄色い通学帽に、真っ赤な傘をさしてね、降りしきる雨の中、何をするわけでもなく、ただぽつんと立ってるだけ。
U子はちょっと心配になってね。声をかけてみた。
『誰かまっとうと?』
女の子は「うん」と口に出さずに頷いた。
『そっかー、じゃ、その人が来るまで一緒に待ってあげよっか?』と横に並んだ。
『何年生?』
『家どこ?』
『名前なんて言うと?』
U子は一生懸命話しかけるんだけど、その子は頷いたり、かぶりをふったりするだけで、言葉のキャッチボールができないんですな。
まぁ、低学年だし? 人見知りの子なんだなと思った。しばらくそんな状態で、2人でもって、女の子の待ち人を待っていたんですが、これがなかなかどうして、一向に現れないんだ。
小一時間ほど、一緒に待ってたんだけど、U子、当時はまっていたアニメがありましてな、そろそろ、アニメの始まる時間になっちゃった。
小さい子をひとりで残して…という罪悪感が後ろ髪を引きましたが、テレビを見たい気持ちの方が強く、結局先に帰りました。
また別の日のこと、学校の掃除の時間に、裏門付近で作業をしていると、あの子が立っている。
あれ、同じ学校の子じゃなかったんだ… なんて思いながら
『やっほー!まだ、学校終わってないから待ってて~』と大声で伝えると初めてニコリと笑ってくれましてね、このはにかみ笑顔がたまらなく可愛いんだ。
U子は教室に足早に戻り、ランドセルを肩にひっかけると、まっすぐに裏門へ向かった。
今日も女の子はなーんにも喋らない。
前と同じく、U子だけが、一方的に話している。
『家はこっち?』
『私の家から近いのに学校違うと?』
会話は成立しないんだけど、どうやら女の子はU子のことを気にいってるようだし、U子もまた、女の子のことを可愛いと思っていた。
そして、しばらく一緒に歩き、曲がり角で別れる。
そんな奇妙な帰宅が、その後も数回ほどありましたよ。
名前も学年も学校も知らない女の子、いつも黄色の通学帽に赤いランドセルに真っ赤な傘を持っていて、必ず雨が降るか止んだ後にいる子。
ただ笑顔はとても可愛いかったし少し幼い感じでした。
水無月も下旬になる頃でしたかな。
U子は風邪を引いてしまい、学校を1週間ほど休みました。
そんなある日、
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
U子は、もう風邪は殆ど治っていましたから、暇を持て余してるんですな。外で遊びまわるわけにもいかないですし。
そんな理由で、来客があると誰彼構わず飛んで行ってました。
「はーい!」
U子は元気な声を出し、部屋の引き戸をシュコンと勢いよく開けて、玄関への廊下をダダダと走り抜ける。
U子の家の玄関は磨りガラスでもって、向こう側がボンヤリと透けて見えるんですな。
透けた先に黄色の通学帽に赤い傘が透けて見えた。
『あっ❗あの子だ』
嬉しくなって、ガラガラと玄関を開いた。
相変わらず話さないけどニコニコしているんです。
『なんで家はが分かったと?』
『なんで休みなの分かったん?』
と尋ねますが、相変わらず返事はない。
「せっかくだから、うちで遊んでいきなよ」
と、U子が玄関へと女の子をいざなうと、突然、家の中から、U子のおばあちゃんの叫び声が聞こえた。
『病気だから遊べんばい、悪いけど帰ってくれんね。この子は人間やけん。連れて行かれんと』
U子はおばあちゃんに、
『なんでー私の友達やん、せっかくお見舞いに来てくれたんやし、変な事言わんでいーやん』
とふくれっ面で言い返すやいなや、ドンドンドンと凄い足音鳴らしてピシャッと玄関を閉めて、カチャっとかぎまで掛けてしまった。
U子はそのまま腕を引っ張られ、仏間に連れていかれ1時間ほどお経を読まされました。
一通りお経を読み終わると、おばあちゃんが真剣な顔で言った。
『あれはカッパが化けとる。妖怪とは仲良くなりすぎたらいかんと、人間の生気を食らうから、あんたは弱って連れてかれると』
「妖怪にも悪い物ばかりじゃないけど、あのカッパは流れもんで帰る場所が無いから、水辺に連れてって欲しくて人間に近寄っただけ。
但しどんな妖怪とも仲良くしてはダメじゃ。」
「カッパなんて本当にいるのぉ?」と聞くと
おばあちゃんは
「妖怪は昔から化けるのが上手いから今も案外いるよ…」
って言ったそうですよ。
それ以降、あの女の子を見掛ける事は一度もなくなったそうです。
「夢宮さん、私、梅雨の時期になると決まって思い出すんですよ。
あのかわいらしい姿や、過ごした時間、水辺に連れてってあげたかったとか… どうしても私には悪い妖怪には見えなかったんですよね。」
U子さん、言ってましたよ。