先住者

私の自宅はいわゆる四つ角に位置している。
住宅地によく見られる四つ角であるが、学校の通学路になっている為
朝と夕方はとにかく子供の往来や声が行き交う場所である。
同時に残念ながら事故も起きやすい場所でもあるのですが

不思議な物で
人の行き来が多い四つ角は
人間以外も往来があるようです。

田舎や地方都市にはまだ
組なる組織があり毎月組費なるものを納める決まりがあるのですが、その年は我が家が組長になっていたため
毎月、組費を1000円各家庭に徴収して回る作業がある。

我が家から道を挟んだ斜向かいには高齢のおばあちゃんとその家族が住んでいて
いつもそのおばあちゃんは私の子供達にお菓子をくれたりして可愛がってくれた。

そんなある日、そのおばあちゃんが我が家の玄関をじーって見ている。
ちょうど組費の徴収もあったので

『おばあちゃん、こんにちは!組費貰いに来ましたよー』

と大きめの声を掛けた。
年齢の割にはしっかりされている方なんですが、この日は
いつもと様子が違うように感じた。
見慣れた私や子供を見て
また我が家に目を向けて首を傾げる。

『おばあちゃん』

と我が子が声を掛けると

『あたしボケちゃったかねーーあの家の奥さん、あんなに髪が長い人だったかしらね…』

と、私が笑いながら

『あの家の奥さん?やだおばあちゃんそれ私でしょ?』

と言うとおばあちゃんが

『ほら、あの人さっきからずっとあの玄関先にいるじゃない?何してるんだろうってだから奥さんかなって、でも確かあそこの奥さんは髪が茶色で短いわよね?』

私は子供と顔を見合わせて
玄関先に目を向けたが
私達には何も見えないわけ。
確かに私は茶髪の短髪…
咄嗟におばあちゃんちょっとボケちゃったのかな…

って思いながらおばあちゃんに合わせて

『あら?本当ね、何してるんでしょうね』

と適当に話を合わせてやり過ごそうとした。
するとおばあちゃんが

『あなたは誰?あそこの家の奥さんはあの人よ。もう何年も前に亡くなってお家も新しく建て直してあるんだから』

と言い残し自宅に帰って行った。

私達が住む前の住人がまだ我が家のように生活しているのだろうか…

それともボケてしまったのか

子供と二人で我が家の玄関を見ながら

『ちょっと本当なら怖くて入れないじゃん』

おばあちゃんは一体何が見えていたのか

四つ角は色々なものが集まり
留まる場所なのかもしれませんね

見えたら怖い

見えなくても怖い

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