むかしむかしのことだった。岩船という村に大変酒の好きな権兵衛という男が住んでおった。
この村から隣の村へ行くには「小浦」と呼ぶ浜を通る寂しい山道があり、昔はよくこの道をとおって行った。 ある日のこと、植兵衛は隣村の親戚の祝言に招かれた。酒好きの権兵衛は このでたい席で飲めや食えやの大はしゃぎ。 たいそう酒に酔い、足もしどろになった兵衛はたくさんの土産のごちそうを大切にかかえ、この小浦の道を帰ってきた。
日はとっぷりと暮れ宵闇せまる秋の夕暮れどきであった。
「チャンあんまりおせーから避けン(迎えに)来たよ。その物は俺が持っていくからよこしな」
と言って荷物を権兵衛から受け取った。たくさんのご馳走を右腕にかかえた倅(せがれ)は、
「俺が先に歩いて行くから後からついきな。道が暗えから気をつけろよな」
と優しく言い、無言で小浦の山道を歩いた。 倅に荷物を渡し安心した権兵衛は、酒酔い気分でふらふらと倅の後を付いて行き、やっとこさ家にたどりいたのだった。
「今帰ってきたよ」
と、戸を叩いて家に入ると女房が出てきて、手ぶらの権兵衛を見るなり
「もらいものはアンもねんけ?(何もないの?)」と、けげんそうに聞いた。
「セナが迎けん来たから持たせたど。俺より先にけって帰ってきてったっぺや」
と権兵衛は言った。
「え? 倅は行っきゃしねぇょー」
と女房は言った。
権兵衛はあわて驚き、倅が迎えにきて出会った小浦の道の、その場所へ急いで引き返した。
酔いもほどほどに醒めていた。
するとどうだろう。もらってきた土産の皿や風呂敷が捨てられてあったが、ご馳走はみんな食べられてしまったと見え、すっかり無くなっていた。
「これは、きっと小浦の狐のしわざに違えねえ」と、権兵衛はがっくり肩を落とし、狐に化かされたことに気がついた。
この小浦にはよく狐が出て人を化かしたそうである。