そいつはどんどん車に近づいてきたんだけど、どうも車の脇を通り過ぎていくようだった。
通り過ぎる間も、「テン・・・ソウ・・・メツ・・・」って音がずっと聞こえてた。
音が遠ざかっていって、後ろを振り返ってもそいつの姿が見えなかったから、ほっとして娘の方を向き直ったら、そいつが助手席の窓の外にいた。
近くでみたら、頭がないと思ってたのに胸のあたりに顔がついてる。
思い出したくもない恐ろしい顔でニタニタ笑ってる。
俺は怖いを通り越して、娘に近づかれたって怒りが沸いてきて、「この野郎!!」って 叫んだんだ。 叫んだとたん、そいつは消えて、娘が跳ね起きた。
俺の怒鳴り声にびっくりして起きたのかと思って娘にあやまろうと思ったら、娘が 「はいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれた」 ってぶつぶつ言ってる。
「出ろ」
声のする方を見ると、車の前にTさんが仁王立ちしていた。
パニクった俺は、自分に向かって言ったんだと思い、思わず車のドアを開けてしまった。
しかし「自分だけ逃げちゃダメだ、娘を連れて行かなくちゃ、でも娘は今」とも思い、
慌てて助手席を見るとなんと娘はすやすやと眠っている。
俺は混乱してしまってTさんを見たが、顔がTさんの顔じゃないみたいになってた。
頼れる人間がいなくなった俺はもう泣きそうになりながらドアを閉め、何とかこの場を離れるためにダメ元でエンジンをかけようとした。
その途端Tさんが車のボンネットに飛び乗ったかと思うと
「はいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれた」 ニタニタ笑って、なんともいえない目つきで俺を見ながらつぶやきはじめた。
このときにはもう手が震えてエンジンなんてかけられなくなってた。
「出ろって!」
つぶやきの途中で突然怒号を発したかと思うとTさんは自分の顔面をぶん殴った。
するとTさんの身体からジャミラみたいなやつが勢いよく飛び出した。
Tさんは「破ぁ!」と叫ぶと、そいつに向けて青白い光球を投げつけ距離をとった。
光球はそいつの身体に触れたかと思うと激しい光を発して炸裂。
右腕を失ったそいつは山の奥に逃げていった。
「危ないところだったぜ。あんなもんがいやがるとはな。
遊び半分で山には来るもんじゃねえ。女連れなら特にな」
そう言って鼻血をぬぐうTさん。
俺たちを麓まで送り届けると山菜採りに戻っていった。
寺生まれはやっぱりスゴイ、俺は娘を抱きしめながら思った。