御母様御喜びくださいませ。
おろかなる重信を今日まで如何に致したならば人並みの人間になすことが出来るか、如何に致したならば立派な軍人になってくれるかを一日として忘れた事のなき御母様の心境は、重信自身として又子供として良く良く察せられます。其の御情け深き御母様、這えば立て、立てば歩めの親心、我が身に積る老いも忘れて。この慈愛深き御母様にこの重信は何一つとして充分なる親孝行も出来ず、瞬間なりとも心行くまで御慰めすることも出来ず、只心配のみお掛け致して何とも御詫びの申し上げようも様も御座いません。
実に重信の心境この事のみが頭に残り、残念でたまりません。然しながら今日ではこの心打ち消さんと如何に働いたならば人並みの軍人になれるか、如何に勉強したならば立派な搭乗員になれるかと、最後まで努力しました。その甲斐ありて今は世界への搭乗員となり、こんな嬉しい事はありません。
これでこそ今迄親孝行出来なかったのも最善の親孝行と一人決めに致して、勇んで御母様より頂いた体を以って米英の艦隊に、あの日の丸の鉢巻を締めて潔く日本男子の最後を遂げることが出来ると喜んでいます。
この日をば かねて覚悟の重信が
桜花(さくらばな)とは 母も泣かなん
御母様後に残りし妹・弟も、重信より以上に立派な人間に育てて下されん事を御願い致します。最後にもう一ッペン御母様と呼ばせてください。御母様何より体に充分注意され頑張って下さい。
やがて花咲く春も近き事でしょう。
以上重信の最後の御礼、御詫び、御願いに代えさせて戴きます。
神風特攻、神雷第7建武隊、昭和20年4月16日、沖縄周辺にて戦死。22才。