謹みて御両親様に一筆申し上げます。
「親思う心にまさる親心 今日の訪れ何と聞くらん」と古人も詠みました如く、必ずや御両親様には朝な夕な或いは又寒さ暑さにつけ、私の身を案じておられる事と思いますが、お陰様にて先祖様はじめ御両親様方の御加護によりまして元気旺盛、軍務に精励致して居りますれば他事ながらも御安心下さい。
神土の防人(さきもり)として出征以来既に一年余になりますが、異国に居て懐かしく且つ心強く感ぜられるのは、神土の雄大さ神国の尊厳さであります。その防人として前線に活躍できる喜びを御察し下されたく思います。神代以来、悠久三千年連綿として異彩を放つ国体に殉じた幾多祖先の尊い血潮により護られ続けた神土は、前古未曾有のこの難局に直面して、再びそれらの血を継ぐ我々国民の真剣な姿で護られつつあります。
思えば先祖達は只々神土の弥栄(いやさか)を祈りつつ、黙々として殉じて来たのであります。平和な時は政治・経済・社会・芸術とあらゆる方面に、優秀なる日本文化の建設により神土の弥栄を祈り、又戦争に於いては率先大君の御楯となり神土の防人として尽忠の誠を尽くし、平和と戦争を論ぜず、只黙々と神土の弥栄を祈り、その弥栄を信じつつ殉じたのであります。
しかも神土が悠久の躍動を続ける如く、全民族は生死を超越して永遠の大儀に生き、神土の弥栄に尽くしつつあるのであります。父様この時間と場所を超越した根底に脉々(みゃくみゃく)と通ずる大きい流れこそ、真の日本の姿ではないでしょうか。過去の歴史も示す如く、幾多政治家・科学者・芸術家・宗教家・武人・農夫共にその分野々々に於いて、神土の弥栄を祈り且つ信じて来ました。
先祖様始め御両親様がそうであった如く、その尊き血を受け継いだ私も神土の危機に殉じ、神土の弥栄を祈り且つ信ずる者であります。幸いにして私達瀬口家には、未だ二人の弟が居ます。これが立派な人間に成長し如何なる部門に進もうとも、その部門で十分活躍し、共に神土の弥栄に寄与することを信じて止みませぬ。されど十分活躍するには、健やかなる身体と、逞しき心と、深い学問が必要な素地です。
特に現在の如く進歩せる世に於いては、深い学問が必要と思います。私は御両親様の温かき心から学問に身を捧げさせて下さいまして一番嬉しく思います。
正しき学問、この真の自己を自覚し、真の天然理法を理解する唯一の道です。私もかかる危機に遭わざれば、研学に生涯を傾注する覚悟でした。弟達にも必ずこの学問だけは十分やらせて下さい。そしてその素地を広める事により、必ずや真に自覚し、真に理解し、意義ある生涯をもって神土の弥栄に寄与出来るかと思います。先祖の墓前に額(ぬか)づく時、又神社に詣でる時の心境こそ、我々の真の心境ではないでしょうか。私にとってあの時程、幸福を感ずる時はありませんでした。思えば万国に比類なき神土ではありませんか。この神気に打たれし時程、一家の喜び、自らの感激を感ずる時はありません。この世に生を享け、この尊き神土に籍を置きし幸福を沁々(しみじみ)感じさせられます。
先祖がそうであった如く、この比類なき神土に生まれし喜びを、御両親様と共々感ずると共に一家共に生死を超えて、この神土の弥栄を祈りましょう。
幼き弟妹達のことは呉々もお頼みします。孝行の真似事すら出来ず、いつもいつも心配をおかけした事を深く詫びると同時に、御両親様の天寿の全からん事を切望して止みませぬ。
敬具
神風特攻、第11金剛隊。昭和19年12月16日フィリピン海域にて戦死。23才。
ミンドロ島サンホセ附近攻略部隊