妹へ
妙子、全く意地悪ばかりして申し訳ない兄だったね、許してくれ。愈々明日は晴れの肉弾行だ。意地悪してむくれられたのは、今から思えばみんな懐かしい思い出だ。お前も楽しかった思い出として笑ってくれ。兄さんが晴れの体当たりをしたと聞いて、何もしんみりするんじゃないよ。
兄さんは笑って征くんだ。凡そ人間とはだねエッヘン!大きなあるものによって動かされているのだ。小さな私たちの考えも及ばない大きな力を持つあるものだ。それは他でもないお前の朝夕礼拝をするみ仏様なのだ。
死ぬという事は辛いというが『何でもない。み仏様のなされることだ』と思えば、なにも問題でもなくなるのだ。欲しいと思うものが自分のものにならなかったり、別れたくないもの、例えば兄さんに別れたくなくったって、明日は兄さんはお前なんかまるで忘れでもしたかのように、平気であっと言う間に散ってゆくのだ。
そして丁度お前のような境遇の人は、今のような日本は勿論世界中のどこにでも一杯いるのだ。又兄さんは特攻隊に入って暫らく訓練したが、兄さんの周囲では、特攻隊と関係の無い長命するように思える人が、ポツリポツリと椿の花が落ちるように死んで行った。大体解るだろう。この世は〝思うがままに行かないのが、本当の姿なのだ〟と言うことが。
簡単に言えば、ちょっとまずいが、無常が常道の人世とも言えよう。
とに角なにも心配することなんか、この世には無いのだ。明るく朗らかに仕事に励んで勉強をして、立派な人間になってくれ。それがとりも直さず御国への最も本当の御奉公なのだ。兄さんはそれのみを祈りつつ征く。
難しそうな事を色々書いたが、兄さんも色々これまで考えた挙句、つい最近、以上書いたような心境になったのだ。お前もなかなか本当の意味は分かり難いとは思うが、折に触れてこんなことを考えていたら、何時かは分かることだ。
朝夕お礼をすることは忘れないように。しみじみ有り難く思うときが必ず来る。お父さん初めお母さんも相当年もとられたことだから、よくお手伝いをしてあげてくれ。姉さん、昭も頼む。元気に朗らかにやるんだよ!仏様のことを時々考えろと言ったって、仏様とはしんみりした者とは、全く関係の無いものだよ。以下取り急ぎ断片的に書く。
1、運動は必ずやるべきだ、精神爽快となる。
1、守り神(マスコット)を頼んであったが、手に入らなくても何の心残りもなし。雨降れば天気悪しだ。ワッハッハハ。
1、よく読書すべし。
いくら書いても際限なし。ではさようなら、お元気で。
神風特攻・琴平水心隊、昭和20年5月28日、南西諸島方面に於て戦死。23才