木野宥治 海軍中尉【特攻隊】

拝啓 御手紙拝見有り難う御座いました。

坂本竜馬氏大西郷を評して曰く「彼は大鐘のような男だ。大きく打てば大きく響き、小さく打てば小さく響く」と。最近漸くこの言葉の意味が判ってきました。僕が海軍予備航空隊に入隊した第一日、部長は我々に曰く「海軍のスピリット、伝統的な気風は黙ってやる。黙ってただ実行練磨する事だ。黙って実力を養うんだ。宣伝なんかしなくても、真の実力者はグングン頭角を表して行くものだ。今の事変の海軍航空隊の活躍を見ろ」と。

僕が高商へ入学して約一年、つくづく感ずることは世の中、特に学校内になんと又口ばかりの人間が、実力のない人間が多い事だろう。口に政治・哲学・法律・経済等を一人前に論じながら、学校の僅少の学課の予習復習さへも満足にやるだけの根気と、学問に対する熱と実力のない人間が、なんと多い事だろうということです。

僕自身、過去、現在を反省して誠に、口に南進政策、海洋政策を論じながら、僅かに英・数・国・漢の高商入試をも突破出来なかったのです。僕は足元を忘れていました。大きな落とし穴のある足元を。無論我々の全ての行動を律し統一すべき志は必要です。そしてその志に対する実行力と熱と信念を持って、自己の生活の第一根本より基礎を固めて行くべきです。そして黙ってやることです。黙って実力を養うんです。世は実力の時代です。大学卒・高商卒の肩書きが何の役にも立たない時代です。一に実力、二に実力です。そして大きく打てば大きく響き、小さく打てば小さく響く、底知れぬ実力者たるべく努力せねばならぬ事が、ようやく判って来ました。

母上、昨日より発熱流感との事。僕は肺炎の怖れなき様子なれど目下静養中、至極元気、食欲旺盛、着々快方に向かい居り、又十分無理せぬように監督中なれば御安心下さい。

帝都も流感、大流行との事、くれぐれも御注意を。

御義兄上章君によろしく。

姉上様       宥治

神風特攻。マカッサル上空にて戦死。25才。

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