「耳無芳一の話」小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)
七百年以上も昔の事、下ノ関海峡の壇ノ浦で、平家すなわち平族と、源氏すなわち源族との間の、永い争いの最後の戦闘が戦われた。この壇ノ浦で平家は、その一族の婦人子供ならびにその幼帝――今日安徳天皇として記憶 […]
七百年以上も昔の事、下ノ関海峡の壇ノ浦で、平家すなわち平族と、源氏すなわち源族との間の、永い争いの最後の戦闘が戦われた。この壇ノ浦で平家は、その一族の婦人子供ならびにその幼帝――今日安徳天皇として記憶 […]
ひと目惚れは日本では西洋ほどありふれたものではない。一つには東洋社会の特有の構造のためであり、もう一つには恋愛にまつわる多くの不幸は親が取決める早婚によって未然に防がれているからである。しかし他方で、 […]
読者はどこか古い塔の階段を上って、真黒の中をまったてに上って行って、さてその真黒の真中に、蜘蛛の巣のかかった処が終りで外には何もないことを見出したことがありませんか。あるいは絶壁に沿うて切り開いてある […]
二百年ばかり前に、京都に飾屋九兵衞という商人が居た。店は島原道の少し南の、寺町通という町にあった。下女に――若狭の国生れの――玉というが居た。 玉は九兵衞夫婦に親切に待遇されていて、誠に二人を好いて […]
武蔵の国のある村に茂作、巳之吉と云う二人の木こりがいた。この話のあった時分には、茂作は老人であった。そして、彼の年季奉公人であった巳之吉は、十八の少年であった。毎日、彼等は村から約二里離れた森へ一緒に […]
五百年ほど前に、九州菊池の侍臣に磯貝平太左衞門武連と云う人がいた。この人は代々武勇にすぐれた祖先からの遺伝で、生れながら弓馬の道に精しく非凡の力量をもっていた。未だ子供の時から劒道、弓術、槍術では先生 […]
大名の奧方の病が重くなつて危篤にせまつてゐた、そして奧方は自分でも危篤にせまつて居る事を承知してゐた。文政十年の秋の始めから床を離れる事はできなかつた。今は文政十二年――西洋の數へ方では一八二九年―― […]
一 山路を登りながら、こう考えた。 智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。 住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくい […]
どっどど どどうど どどうど どどう 青いくるみも吹きとばせ すっぱいかりんも吹きとばせ どっどど どどうど どどうど どどう 谷川の岸に小さな学校がありました。 教室はたった一つでしたが生徒は三 […]
雪渡り その一(小狐の紺三郎) 雪がすっかり凍って大理石よりも堅くなり、空も冷たい滑らかな青い石の板で出来ているらしいのです。 「堅雪かんこ、しみ雪しんこ。」 お日様がまっ白に燃えて百合の匂を撒き […]