拝啓
祖母様はじめ皆様、益々御元気のことと推察致しおります。私も、益々士気旺盛、訓練に邁進致しおりますれば、御安心下さい。戦局は、日に日に重大の度を加え、吾等青年士官の血は躍り、肉盛り上るの感を深からしめます。
敵の侵攻意図は一頓挫を来たしたかの感を与えますが、決して侮るべからざる攻撃力と精神力により、再び来襲するでありましょう。
我等もまた、其の機に備えるべく、毎日、夜を徹して努力いたしております。人間到る所青山あり、と昔より言われておりますが、武人たるべき者は、青山が武人の価値を支配します。
宜しく武人は、武人にふさわしい青山を選ぶべきであり、近き将来、必ずや八木家の名を此の世に現さしめるでありましょう。期して、其の報をお待ち下さい。
八木家の跡継ぎは元気旺盛なる逸郎によって、立派に保たれるでありましょう。後顧の憂いなき私は何んと幸福者でありましょう。
断じて征かん南海の涯まで。
最後に皆様の御健康と御多幸を祈ります。
四月二十日、悌二
父母様
逸郎さん、元気で学校に通っていますか、兄さんはこの前の休暇の時(三月十日)、逸郎さんの元気そうな顔を見て、毎日安心して訓練しております。
兄さんが戦死したら、逸郎さんです。兄さんは誰にも負けないような手柄をきっと立てます。
逸郎さんは、兄さんよりさらに立派な人になって、お国のために働いて下さい。兄さんの最後のお願いは、それだけです。幼い時から、逸郎さんが好きだった兄さんは、きっと戦死した後も、草葉のかげから見守ることでしょう。
では、おばあさん、お父さん、お母さん、お姉さんの言われることを良くきいて、なまけた時は、兄さんの最後のお願いを思い出し、きっと、お役に立つ人になって、兄さんを喜ばして下さい。では兄さんは、今から元気で征きます。
四月二十日、兄より
逸郎さん
敵神州に侵攻す。我れ神風となり、今より壮途につかんとす。余の本懐、之に過ぐるはなし。唯、敵艦轟沈あるのみ。生を神州に享けしより二十年、後顧の憂なきは、上は陛下、下は父母弟妹、親族一同、諸先輩の御蔭にして、余の最も感謝しおる所なり。
断行を期す。最後に、皇国の必勝を祈念すると共に、皆様の御健闘をお祈りし最後の言葉となす。誓って成功を期す。
今頃は父母も夢路を辿るらん
今より征くぞ敵轟沈に
彼も人我も人なり同じ人
断じて敗けじ大和九州男(やまとくすお)は
あだどもを撃ちてし死なむ君のため
何か惜しまむ捧げたる身を
幾年(いくとせ)を雲湧く阿蘇に住みなして
耕す人ぞなつかしきかな
阿蘇山の峰谷々に白雲の
湧くや筑紫の海のつづきに
大和桜は朝日に匂ふ
散らば蕾で散り果てむ
咲かで散るのが花の華
昭和20年4月27日、沖縄海域にて戦死。19才。

